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第43話 その公爵令嬢、何か隠していませんか?

last update publish date: 2026-09-09 15:30:08

ケヴィンの件が片付き、晴れ晴れとした気分で学園にウェルシェは登校した。

「ご機嫌よう、ウェルシェ・グロラッハ様」

そこで彼女を待っていたのは、普段は校内で見かけない美女であった。

イーリヤ・ニルゲ公爵令嬢――

黒い髪に赤い瞳、精巧な人形のように整った顔、女は嫉視し男は見惚れる起伏のあるプロポーション。一度その姿を目にすれば絶対に忘れられない絶世の美女。

オーウェンのテコ入れの為にもウェルシェも近いうちに接触をしようと思っていた相手だ。

(これは好都合ね)

ウェルシェは内心でにんまり笑った。イーリヤは格上の相手だけに、どう接触しようか思案していたところなので、手間が省けた。

「これはイーリヤ・ニルゲ様、ご挨拶痛み入ります」

「将来は姉妹になるのだしイーリヤで良いわ」

「では、私のこともウェルシェとお呼びくださいませ」

しかも、望外にも名前を呼ぶ許可まで貰えた。これで今後は接触がしやすくなる。

「本当はもっと早くにあなたと会いたかったのだけど……」

「あなた様はとてもお忙しい身。取るに足りぬ私などをお気に留めていただけただけでも光栄でございますわ」

イーリヤはふっと笑みを零した。

見惚れるほどの妖艶な美しさだ。

「ウェルシェが取るに足りなかったら、この学園のほぼ全員がつまらない人間になってしまうわ」

「まさか……私のような非才の身など……」

「謙遜も過ぎれば嫌味よ」

(いやいや、公爵令嬢でありながら文武両道、魔力量甚大、努力の人で商才まである絶世の美女相手に何をどう不遜に振舞えと?)

ウェルシェとて自分の能力に自信はある。だが、いくら才色兼備の彼女でも目の前にいる化け物女スーパーレディが相手では霞むと言うものだ。

「イーリヤ様を前に私如きではとても大言壮語は口にできませんわ」

「あら、そうかしら?」

イーリヤが小首を傾げると見事な赤い前髪が首筋に垂れる。その色気と美しさに思わずため息が漏れ出そうになるのをウェルシェはぐっと堪えた。

「イーリヤ様はご自分がどれほど優れているかお分かりになられておりませんの?」

まったく、嫉視しっしするのもアホらしくなる美貌だ。

天はこの女性にいったい何物を与えているのか。

「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」

「?」

「まったく分かってないって顔ね」

今度はウェルシェが小首を傾げたので、イーリヤは苦笑いした。

「入学早々、儚げな美貌で話題をかっ攫い、容姿とは裏腹に成績、魔術の腕は学年トップ。物腰柔らかい美しい所作で、性別問わずに周囲を魅了している『妖精姫』は私より有名よ」

イーリヤは商会運営と妃教育や社交などで忙しく飛び回っているので、学園にいる時間がほとんどない。それもあって学園内での話題はもっぱらウェルシェ関連で染まっていた。

「学園で一番の人気者でしょ。殿方からは特に」

「あまり嬉しい評判ではありませんわ」

ウェルシェが少しむくれるとイーリヤはくすくす笑った。どうやら学園にいなかったイーリヤの耳にもケヴィンの話は届いているようだ。

だが、これは好都合。どうやらウェルシェに対するイーリヤの心証は悪くなさそうである。

これならオーウェンの王位継承権の件でイーリヤに協力を得られそうだ。ウェルシェとしては何としても彼女に頑張ってもらいたい。

まあ、それでなくともイーリヤは公爵令嬢であり、将来は王妃になるのだから無下に出来る相手ではない。それに、エーリックと結婚すれば義理の姉となる彼女との関係を良好にしておいて損はないだろう。

(イーリヤ様個人を見ても、彼女の商会はかなり魅力的ですし)

腹黒令嬢はどこまでも打算的なのである。

「それに、優秀な手駒も多数手懐けたんでしょ?」

「えっ?」

スッと目を細めて微笑むイーリヤの雰囲気がガラリと変わった。

「オーウェン殿下から離れた鋭才達を引き込んだそうじゃない」

「――ッ!?」

「皆が愚かにも彼らから距離を取っている隙にね」

(学園にほとんど来ていないイーリヤ様が既に把握しているなんて!?)

ウェルシェの背筋に冷たいものが走った。

「だから、私の前では擬態し猫を被らなくてもいいのよ」

「――ッ!?」

二度目の驚愕ビックリである。

(全部バレてーら)

ウェルシェの頬をツーッと冷や汗が伝って落ちた。

「な、何を仰っているのか分かりませんわ」

「前世でもあなたみたいなのいたのよね」

(前世? 生まれ変わりのこと?)

この世界にも輪廻転生の概念は存在する。だが、どうにもイーリヤが意図しているのとは認識にズレがあるようにウェルシェには思えた。

「サークルクラッシャーみたいなはた迷惑な女ってイヤよねぇ」

「あ、あの……イーリヤ様?」

イーリヤが次々に口にする聞き慣れぬ単語にウェルシェは戸惑う。

「ふふふ、その反応を見る限り……違うみたいね」

「違う……とは?」

「ゲームでの『悪役令嬢ウェルシェ』と乖離してるから、中身が違うかと思ったのよ」

「いったい何の話でしょう?」

イーリヤがますます謎めいてくる。

「今はまだね……もっと仲良くなったら教えてあげるわ」

だが、今のところイーリヤは説明するつもりはないらしい。

「だから、親交を深める為にも普通フランクに話し掛けてね」

そう言って悪戯っぽくイーリヤは笑う。噂通り気さくで親しみやすい人物のようだ。ますますウェルシェには都合が良い。

「無理を仰らないでくださいまし」

だが、お互い立場がある。

それにイーリヤを完全に理解したわけではないので、ウェルシェはまだまだ警戒を解くわけにはいかなかった。

「あらあら、さすが生粋きっすいの令嬢は違うわね」

「それはイーリヤ様も同じではありませんの?」

ちょっと小馬鹿にされたのかと、ウェルシェは僅かに眉を寄せた。

「ごめんなさい、別に侮辱しているんじゃないの。むしろ、感心してるのよ。あなたの猫被りは利己的な愉快犯ではなく家や領民の為でしょ?」

ここにカミラがいれば「お嬢様は正真正銘の愉快犯です」と大爆笑していただろう。ただ、グロラッハ家や領民を大事にしているのも事実ではあるが。

「さすが正真正銘の生まれついての高貴な令嬢よね」

「イーリヤ様も公爵令嬢ですわ」

「私は知識チートやキャラ能力の高さで誤魔化しているまがい物なのよ」

まただ――ウェルシェにはイーリヤが先ほどから口にする言葉の意味が分からない。

「イーリヤ様が紛い物?」

「ええ、そうよ」

頷いたイーリヤは、ああそう言えばと何か思い出したようにポンッと手を打った。

「私以外にも同じようなのがもう一人いたわね」

「同じようなの……で、ございますか?」

「ええ、これはお近づきの忠告。あなたのお相手エーリックはヒロインの攻略対象ターゲットの1人だから――」

(ヒロイン? ターゲット?)

ウェルシェには理解不能な言葉であったが、イーリヤ様は構わず続けた。

「気をつけなさい。あなたの婚約者も狙われているのよ」

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